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〈レポート〉第7回講座-小旅行「長峰山で森、里山を考える」

2012.10.16 | カテゴリー:講座の記録

レポート

第1部
自然観察報告

気持ちよく晴れ渡った8月26日(日)、午前10時から午後4時までの日程で、信州自遊塾第7回講座「長峰山で森、里山を考える」を開きました。13年前より長峰山で「蝶の森」「絆の森」などの整備活動を行ってきた特的非営利活動(NPO)法人・森倶楽部21」の会員とともに山を歩き、森、里山、共生、エネルギー、生物多様性など、さまざまな角度から自分たちの暮らしを見つめ、考えようという趣旨でした。

集合場所となった安曇野市長峰山「天平の森」には、会員、一般参加者などあわせて70人余りが続々と訪れました。

第1部、午前10時から正午までは、野外へ出て、「森倶楽部21」の皆さんが整備を続ける「蝶の森」「絆の森」を共に歩きながら、樹木、植物、野鳥、蝶、虫などの自然観察を行いました。案内してくださったのは、環境学習担当の理事で、県自然観察インストラクターでもある森芳昭さんをはじめ、宮本義仁さん(副理事長)、土田秀實さん(蝶の森リーダー)、廣山正義さんの4名。

森倶楽部21の皆さんは、多様な植生と明るく見通しのよい森や草原を必要とする蝶を「指標」として「里山つくり」を行なっています。人工的に手を入れるのではなく、以前のような植生に戻すことが大事と考え、環境を整える活動を続けてきました。それによって、蝶の種類が16種から72種に増えたといいます。結果的には多様な動植物などを育くんでいくことにつながっています。このほか、里山整備に大切なことや課題など貴重なお話を聴きながら「蝶の道」を歩く私たちの周辺でも、オオムラサキやスジグロシロチョウ、ヒョウモンチョウなどがのびのびと舞う姿が見られました。

参加者からは「里山歩きはとっても良かったです。久しぶりに野山を歩く機会に恵まれ、今まで目にはしていても名前がわからずにいた植物を知り、そして自然の大切さ、また、驚き等々、歩きながら感じました。蝶の森が人の手によって守られている様子もわかりました(参加者の感想より一部抜粋)」という声も聞かれました。

 

第2部
全体トーク(前半)

12:30からの樹々に染み入るような、素敵なコカリナと草笛名人、吉江洋志さんの草笛の自然の音色に耳を傾け、その余韻が残る中、2部のトークが始まりました。

先ず司会の松本猛信州自遊塾塾長より、パネラーの森芳昭NPO法人森倶楽部21理事、中野信州自遊塾名誉塾長の紹介がありました。

森芳昭理事「先ず、目を覚ましましょう。蝶の種類が最も多い県は?」と開口一番に質問を投げかけた。「実は長野県です。日本の蝶の約6割の150種が生息。南北に長く山に囲まれ、標高差があるなど環境の多様さが日本一の生息数となっている。」

その中で森倶楽部21が長峰山を選び、活動を開始した経過をパワーポイントで紹介した。(詳しくは森倶楽部21 H.P参照)

1998年、富山県で植林地の除草剤使用を発端に、全国から草刈ボランティアが活動し、そのドキュメンタリー映画「草刈十字軍」の上映を長野県の4ヶ所で行ったこと。「反対だけでは自然は守れない。自分たちで行動しよう」と1998年に活動を開始。2000年に「特定非営利活動法人森倶楽部21」として新たに出発し、長峰山を主に里山保全活動を始めた。「長峰山フォーラム」を8回開催し、集大成として補助を受けガイドブック「里山とともに」を作成してきたことなどを紹介した。

そして最後に、今日のパネラーとして予定されていたが家庭の事情で急に欠席となった森倶楽部21永田千恵子理事長のメッセージを参加者に紹介して話を締めくくった。

永田千恵子理事長のメッセージより(一部)

『身体を動かし、汗を流すことを厭わず、自然をよく観て、その有り様に感動し、様々なことを思い、気づき自然から学んでいく気持ちを持っていて、日々食べていくことができれば、それ以上のものは要らないなあとこのごろ思っています。

自分が積極的に関わることで、豊かな心持ちにさせてもらえる里山の素晴らしさを、多くの人々に気づいてもらえる機会やしくみをどのようにしたら作れるか?それがこれからの一番の課題です。お金が無いとできないのだろうか?島崎先生が仰っていた「一人一人が年間3日山に入れば、山は蘇る」と言う体制を楽しみを持って進められないだろうか?身の丈に合った山仕事、山遊びをしながら取り組んでいくしくみを、山林所有者、NPO、行政、学識者など様々な主体が連携して考えていけたらと思います。中野先生、松本さんのお力を発揮していただくことも大きな役割かと思います』

次に中野名誉塾長が「清貧を優雅に生きるー自然との共生・スローライフのススメ」(資料参照)をテーマに語った。

中野名誉塾長「私は話し下手なので・・」「中野の話は子守唄だと言われているが」と会場を和やかにさせて話しを切り出す。そして「私の専門はドイツ文学という固いものだが、実は生粋の里山人間です。滋賀の甲賀で生まれ育ち“農林水産業”は私の身体に染み付いている」

「子どもの頃の自然体験こそが今の私を作った」「人間はどんなに神様を気取ってみても所詮は人間でしかない。人間は自然によって生かされている。自然の恩恵なしには生きていくことのできない存在」「福島原発事故は“文明”の自然との乖離、人間と自然との疎外状況の象徴的な出来事」などと事前に用意したレジメの中の文を読み、時には笑いをさそいながら楽しく話されました。

 続いて松本猛塾長の司会で質疑応答が行われた。

松本塾長から森理事への質問

松本塾長「これまでの話しを伺って森倶楽部21の活動の大切さを知った。その人たちの強いエネルギーの元は何か」「“一人が年に3日山に入れば山は蘇る”と 島崎先生が言われたが、里山を復活させるためには何が必要か」

森理事「森倶楽部21の人たちは、多分やっていることが楽しいからだと思う。山仕事は今日やった分だけ必ずお返しがある。そのことを通して各人の生き方を変えることで、自然、里山に貢献することになるのではと考えている」

松本塾長「除草剤に関して、手がかかるから薬をという発想がある一方で、農家の中ではそれではだめだという人もいるが」

 中野名誉塾長「人間は他のものの命をもらって生きている存在。しかし楽をしようという思い上がりが自然との乖離を作り出している。人工を限りなく自然と対比させていくと人間の自滅につながる。分を知る。足るを知る。謙虚さこそ大事である」。

そして福島原発事故にも触れ、「原発のゴミでさえ未だに処理できない現状にもかかわらず、また原発を動かそうとしている。早くみんなの力で止めさせなければいけない」と強い口調で話された。

松本塾長「間伐材、切捨て間伐の利用については」に

森理事「この問題は悩めるところである。愛知の一部では地域で循環させたりしていることもあり、安曇野でもやっていければと考えている」

ここで時間になり、質問用紙の記入なども含め21分の休憩の後、フリートークに入った。

 

第2部
全体トーク(後半)

第2部の後半は、出席者からの質問や意見に答える形で進みました。

里山整備運動を広める方法は?

(中野) 子供に「人間は自然の一部。自然に生かされている」ということを体験させながら教育するのはどうか?

(松本)ドイツでは「緑の幼稚園」が増え、子供の身体能力・社会性の向上にも良いとされている。

間伐材の利用促進策は?

(松本)日本の気候風土に合うのは木造の家。

(中野) 根羽村は地元の「根羽杉」を普及させる施策をしている。

(出席者)森林税を使い、ドイツや北欧のように活用できないか?

(出席者)賛成。国は、国道より林道を整備すべき。

(森)長野県は、ドイツや北欧のように土地が平らでなく、間伐材を下ろすのが大変。やむなく間伐材は捨て置きすることが多い。

熊を射殺するのをやめ、里に下りてこないようにできないか?

(森)お仕置き放獣してもまたすぐ下りてくる。一部の「軟弱」な熊が、簡単に食べられる農作物を食べる癖がついてしまっていて、冬も冬眠しなかったりしている。イノシシ・鹿も含め、もっと里山に人が入るようにすれば防げるかも。

(出席者の明科の町会長の方)地域住民が共同で里山や電気柵を整備すれば棲み分けできる。

(森)自治体の予算で業者に整備をしてもらってもその時1回だけで終わる。継続的に住民が楽しく里山には行って整備することが必要。

マツクイ虫(北米原産)の被害が増えている。燻蒸して殺しているが予算が不足。

(森)農薬散布は避けるべき。アカマツは養分が多い土地では軟弱に育ち、虫にも弱い。

(中野先生のお話に対して)科学技術の発達は悪なのか? 自分たちは実際にどうすれば良いのか?

(中野)人間は、「サピエンス(知恵のある)」よりもまず「ホモ(自然の一部である人類)」であり、サピエンスの能力で科学を制御することを期待したい。「花鳥風月」を楽しむような生き方が必要。

第7回講座「長峰山で森、里山を考える」
参加者の感想(アンケートより)

・「この講座に参加して非常に参考になり、自然意識が高まりました。自然が失われていく現在、信州自遊塾、森倶楽部の皆さん、良く森林整備をしていただき本当にありがたく思います。またこの講座に参加したいと思います。ありがとうございました」(安曇野市豊科・宮沢勝人・草笛会会員)

・「忘れていた里山を見てどうにかしなければならないと一歩を踏み出すことができたのは皆が肩の力を抜いて取り組んでいたことがわかって良かったです。これからの展望でも地域に根ざした方向性が感じられて感情的にも同意できました」(佐藤嘉一)

・「昨日の申し込みでしたが、峯岸さんにOKの即答、うれしかったです。楽しい汗を流しました。知らないことだらけ、学ばせていただきました。コカリナ、草笛、楽しい企画です。いい企画です。ありがとうございました」(安曇野市三郷・星利夫)

・「今回初めて参加。いろいろ考える視点が得られた気がします。大変参考になりました」(安曇野市豊科・初谷澄夫)

・「初めて参加して、森倶楽部21、森さんの頑張っている姿に感動しました。参加してよかったです」(松本市出川・小穴芳一)

・「今日は自然と触れ合えてとても楽しい時を過ごせました。また、会合では里山の問題等よくわかりました。ありがとうございました」(松本市井川城・米窪泰志)

・「夏の猛暑の日にこれほどの参加者が集まったことに嬉しく思います」(松本市村井町西・家田典和)

・「初めて参加させていただきました。里山再生に向けて地元の方々のご苦労を聞くことができました。住民自ら具体的な取り組み、成果、課題を明らかに語られる内容に感動しました。森と里山に共に暮らす人間、生活のあり方を問い直す機会となりました。信州自遊塾講座、機会がありましたら次回も参加したいと思いました。スタッフの皆さまお疲れ様でした」(無記名)

・「里山歩きはとっても良かったです。久しぶりに野山を歩く機会に恵まれ、今まで目にはしていても名前がわからずにいた植物を知り、そして自然の大切さ、また、驚き等々、歩きながら感じました。蝶の里、人の手によって守られている様子もわかりました。動物との共存も本当に難しいと考えます。皆、命あり、生きる使命あり。日々生活に追われていることにハッとしました。とっても楽しいひとときでした。ありがとうございました。梅の季節に歩けたら幸いです」(塩尻市広丘吉田・水野谷恵)

 ・「日頃、里山について感じることが多々あり、楽しみに参加しました。里山整備事業活動のあり方、意義、考え方についていくらか理解できたかなと思いました。木を伐ってはいけないのではなく、山のためには伐らなくてはいけないことに気づかされたこと。また、木を伐ってもそのままでは森を良くしていることにはならないというジレンマありの意見、大事ですね。蝶の話も楽しかったです。中野先生の自然に触れ、里山に生かされている…のお話も感動いたしました。農薬、除草剤などの問題から原発へ、開発の問題も大です。里山の歴史、文化に触れ、森林に学ぶことの大切さをいくらかでも知り得たように思います。ありがとうございました」(無記名)

・「初参加です。小生、障害者で歩行ままならず、興味は十分にあったものの注意を向けていませんでした。今回を逃したら次回はないと思ったので参加しました(10月末手術の予定)。豊かな自然と残したい歴史、美しい自然環境を皆さまに託します。貴重な講座を受講でき、感謝です」(安曇野市明科東川手・沖)

・「ありがとうございました。長峰山が想像以上にフトコロの深い山だと知りました。この里山保全活動を推進している森倶楽部21の皆さまに敬意を表します。フォーラムも非常に参考になりました。参加者の真剣な質疑に感嘆しました。里山ウォークは少人数の班構成で実施されたらいかがでしょう」(川﨑克之)

※住所の番地等は記載省略しました。

 

 


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